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和歌山地方裁判所 昭和57年(ヨ)170号 決定

債権者 有限会社有田港運

債務者 国 ほか一名

代理人 浅尾俊久 山口修弘 畑川純 豊田誠次 ほか九名

主文

一  本件申請をいずれも却下する。

二  申請費用は債権者の負担とする。

理由

第一申立の趣旨及び理由

<略>

第二当裁判所の判断

一  <証拠略>によると、次の事実が一応認められる。

1  当事者

(一) 債権者は、和歌山下津港において沿岸荷役及びこれに、附帯する一切の事業を行うことを目的として昭和四〇年七月一日設立登記された有限会社であり、同月一〇日、港湾運送事業法(以下、法という。)五条、六条に基づき、運輸大臣から和歌山下津港における沿岸荷役事業(限定)の免許(同年七月一〇日近海港第七〇五号和歌山下津港四種限定第一〇一八号)を受けた。

ところが、債権者は、昭和五四年八月以降昭和五七年七月に至るまで事業者が毎月報告を義務づけられている沿岸荷役実績報告書並びに船舶積卸し実績報告書を近畿海運局和歌山支局に提出していないほか、昭和五七年二月八日同支局担当官によつて実施された業務監査の結果、雇用労働者は皆無であり、事業用施設である上屋も保有していないこと等が判明したため、同支局から事業の実態がないとして、休止又は廃止の届を出すよう行政指導を受けたが、債権者が存続を強く要望したことにより一年間の猶予を認められて現在に至つている。

(二) 債務者国(建設大臣)は、一般国道四二号改築工事「有田バイパス」(和歌山県有田市地内)及びこれに伴う県道、農業用水路及び農業用道路付替工事(以下、本件道路建設工事という。)の起業者として、有田川に有田大橋(申請書添付の図面赤点線部分<略>、以下本件橋梁という。)を架設することを計画し、債務者宮地鐵工所は、右事業計画に基づき債務者国から本件橋梁架設工事(但し、一部)を受注し、昭和五七年六月一一日着工したものである。

2  本件道路建設工事(本件橋梁を含む。)の概要

(一) 本件道路建設工事は、紀伊半島唯一の主要幹線道路である一般国道四二号の和歌山県有田市内における交通混雑を緩和し、沿道環境の改善を図り、あわせて道路機能の向上、沿道住民の安全性を確保するため必要不可欠のものとして計画され、昭和四五年度に事業に着手したものである。

(二) 本件道路の具体的な建設計画の概要は以下のとおりであり、計画区間は有田市初島町弓場ないし同市宮崎町古江見、計画延長は三一四〇メートル、構造規格は道路構造令による第三種第二級、設計速度は六〇キロメートル毎時、車線数は二車線となつており、本件橋梁は、右道路の一部を形成している。

(三) 本件橋梁架設工事は、昭和五三年九月三〇日、港湾管理者の長たる和歌山県知事の同意を得たうえ、下部工事から着工されたものであるところ、債務者宮地鐵工所は、「有田大橋上部架設その二工事」として、有田川右岸側半分の橋桁架設を昭和五七年五月一八日から同年一〇月二四日までの予定で請負い、右工事は同年一〇月六日竣工した。

これにより、橋桁の架設工事はほぼ完了して、後は床板工事と橋桁の塗装工事を残すのみとなり、本件橋梁工事は、昭和五八年二月に完成の予定である。

二  そこで、まず本件仮処分申請の適法性について判断するに、本件道路建設工事は、行政法規上道路建設工事が公権力を有すると認められるような規定が置かれていないから、公権力の行使に当たる行為とはいえない事実行為であり、民事訴訟による差止め請求の対象とできると解すべく、しかも本件において債権者が本件橋梁架設工事の差止を求める理由は、本件橋梁の水面上の高さが低いため債権者の荷役用船舶の航行が不可能となるというにあり、結局は本件橋梁の水面上の高さの変更を求めるものであつて、債務者国において決定した本件道路建設工事の事業計画(道路の変更・区域決定、事業認定)そのものの適否を争い、変更を求めるものでないことはその主張自体から明らかであるから仮に本件仮処分申請が認容されたとしても、既存の行政処分の効力を否定することにはならないというべきである。従つて、本件仮処分申請は適法といわざるを得ない。

三  次いで、債権者の被保全権利の存否について判断する。

債権者は、前記のとおり法四条一項の免許を受けており、これにより債権者は、法による港湾運送事業の一般的禁止を解除され、同事業を適法に行うことが可能となるが、しかし右免許は、権利設定処分ではなく単に不作為義務を解除するというものにすぎないから、債権者としては、右免許を受けたとしても、それだけでは港湾運送事業法上適法に同事業を行うことができるという公法上の地位を取得したというに止まり、所有権その他の物権のように港湾及び港湾施設の利用に関し、第三者に対して主張しうべき排他的利用権なる権利を取得したものとはいえない(のみならず前記認定の事実よりすれば、債権者は事業実績、事業実体のある会社とは認め難い。)。

又、債権者は、右免許の取得により安諦橋(本件橋梁よりも上流に位置することは、<証拠略>により明らかである。)下流有田区港湾内において、荷役用船舶を自由に航行させ、同港湾内において、荷役作業をすることができる旨主張するが、右免許は前記のとおり法三条四号所定の沿岸荷役事業に関する港湾運送事業法上の免許にすぎないから、右免許を受けたからといつて、荷役用船舶を自由に航行させることはできず、荷役用船舶を自由に航行させるためには、別途内航海運業法に基づく許可を受ける等の手続が必要であるところ、債権者が右許可を得ている旨の疎明はないこと、又、<証拠略>によれば、港湾法二条五項一号所定の航路(有田小型船航路、水深二メートル)は、港口から有田川右岸(北側河岸)に沿い、幅員四〇メートル、延長一八〇〇メートルにわたつて存在するが、右航路指定は、安諦橋はもとより本件橋梁にも至つていないこと、更に本件橋梁より上流においては、港湾法二条にいう港湾施設は存在せず、港湾施設以外の場所で荷役作業を行うとしても、有田川左岸側は河川護岸、右岸は一般国道四二号であつて、荷役に必要な場所を確保することはできず、しかも付近の水深は浅く、荷役用船舶が事実上接岸できない状況にあり、しかも港湾管理者において今後同区域において港湾施設を整備する計画はないことが認められ、いずれにしても債権者主張の如く荷役用船舶を自由に航行させることはできないといわなければならない。

四  以上の次第で、債権者の本件申請は、被保全権利について疎明がなく、保証を立てて右疎明にかえることも相当ではないから、その余の点について判断するまでもなく失当としていずれも却下することとし、申請費用につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 鐘尾彰文 高橋水枝 角隆博)

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